だから面倒

彼女をどうしても諦められなかった。
写真家になるって?あの年から?ロクに操作方法も知らない感じだったけど。
別れたあとも、友人づきあいは続いた。

「訳わかんないんだけど?」。
僕は聞いた。
彼女の汚部屋に通された。
彼女は整理整頓ができない。
身なりはこぎれいに整えるくせに、水回りはきれいに掃除するくせに、整理整頓は無理なんだな。
「だって夢だったし」僕にお茶を差出し、言う。
テーブルには写真集が山と積まれている。
知らなかった。
手始めに安全なロンドンへ行くとのこと。
本当は貧しいアジアの国々をレポートして回りたいが、今は情勢が危険。
虐げられ早すぎる結婚を余儀なくされる貧民国の少女たちの力になりたいのだ、と。
汚染問題さえなければ、原発の現場にも飛び込みたいのだ、とも言った。
甘いな、そして限りなくバカバカしい。
彼女は27歳。
そろそろ結婚を考えてもいい年齢だ。
そして自分で言うのもなんだが、僕は客観的に見て相手としてそう悪い方ではない。
現にオファーやアプローチも多い。
彼女は続ける。
派遣社員だと長期的な休みが取れるから、その期間に海外を巡回するつもり。
英語だって堪能だし、渡航情報をその都度怠らずに確認すればいい。
出されたお茶から湯気が立つ。
ちなみに彼女は漢字が好きだ。
四文字熟語などを並べれば、なんとなくインテリな雰囲気を漂わせられると思っている節もある。
翻訳という仕事は向いているとも思う。
知識欲もあるし、調査能力もまあまあ。
しかし、写真家とは…?。
僕は真剣に思いを打ちあけた。
日本にいてもそういった活動はできること、そして経済的な安定なら自分と結婚すれば解決すること。
実質のプロポーズに対し、彼女はこともなげにこう放った。
だってあなたは私を愛してるんでしょう?それが面倒くさい、と。

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