次男坊
まったく、女だったら何を言ってもいいと思ってるのか。
俺は苦々しい気分で、奴らを置き去りにしてやった。
浜辺でのあいつらの顔。
まったく気分爽快だ。
はい、はい、きっちり聞こえてました。
「カレシ、車はいいけど、顔はイマイチよね」。
って、お前に言われたかねえよ!その上「車持ってるからって、なんかいい気になってない?上から目線感じるってあたしの彼もさっき言ってた」。
って、乗せてきてもらってなんだよそれ!。
ガソリン代を払おうという心遣いすら、誰一人見せはしない。
確かにお前の「カレシ」はイケメンだよ。
端正なマスク。
ひ弱に見えない程度の痩せて引き締まった体。
それに自分がどう笑ったら魅力的かを、しっかりと心得ている。
あのにやけた笑顔。
しかも次男らしい。
次男。
次男は女にもてる。
それを知ったのはごく最近だ。
結婚を意識しだした30代目前の今、29歳は微妙なお年頃なんだ。
俺はアクセルを吹かした。
このエンジンは日本にはもったいない。
そもそも日本の自動車メーカーがアメリカへ輸出したアメリカ仕様のものを逆輸入したものだ。
大陸を走る車に似つかわしく、おおらかな造り。
フロントガラスも実に広々とした眺めだ。
ダッシュボードも不必要なくらいに出っ張っている、俺の愛車。
燃費は悪い。
が、高速を飛ばすときのエンジン音ときたら堪らない。
にしても、あいつらの顔。
彼女、怒ってるだろうな。
さっきから携帯が鳴ってるが、バカ野郎!運転中に出られる訳がない。
これで彼女ともお別れだな。
惜しい気もしたが、心のどこかでよかった気もしてる。
さっき、アイツに見せてたとろけるような笑顔。
結局彼女も、ジジババがついてないイケメンの次男坊がいいのだろう。