悪魔がきたりて
僕の貴重な睡眠を邪魔する悪魔が奪ったのは、睡眠だけではなかった。
なるほど僕は彼女に振られた。
けれど、僕を誰だと思っているのだ。
これまでだって数多くの絶望と困難を乗り切ってきた男だ。
逃げ場は常に確保している。
芸術、読書、映画、それにサッカーにビリヤード。
けれど悪魔は容赦なく何処にでも追っかけてくる。
そういった美しい馴染みの古巣に没頭するほどに、ひょっこりと顔を出す。
それは「愛」という名の「悪魔」。
そうして僕は読みかけの本を置く。
決意と精神統一を図ってきた日記を、ため息とともにテーブルに置く。
僕はもうお年寄りをバカにはできなくなった。
彼らはともかく生き抜いたのだ。
どんなに平凡であれ、ちっぽけであれ。
僕は彼女にメールした。
「会いたい」という気持ちを誠実に綴った。
「誰よりも大切に思っている」と。
「人生を共にしたいのは、君だけだ」と。
男のプライドもここまで捨てられるものではない。
でも僕が大事に保ってきたプライドなど、なんだったろう。
人生は一度きり。
だから後悔はしたくない。
「心から愛する人」と「一生を共にする」。
これほど明白な幸福はなかった。
けれど、勝手にそう願ったところで相手が「Yes」と言ってくれないことには、どうにもならない。
そうして僕は彼女が欲しかった。
死ぬほど彼女が欲しくて死ぬほど嫌われるのが恐かった。
戯れに愛され、途中で飽きられる可能性も高かった。
彼女のあの天衣無縫な性格。
正直すぎるあの壊れた人格。
「どうしたらいい?」僕は必死で考え始めた。
今彼女に愛を打ち明けたら、彼女は間違いなく僕と寝てくれるだろう。
でも、そうじゃない。
僕が欲しいのは「一生涯を共にします」という彼女の心からの誓いだ。
真実心から。
に、してもだ。
「とにかく眠れない」。